2026.09.07

「なぞる旅」から「深ぐる旅」へ。

自転車と船で繋いだ瀬戸内、心の原点に触れる時間。

デジタルが主流になり、手のひらの画面を開けばどんな情報も手に入り、現地に行かずとも「体験をした気分」になれる時代。

けれど、自分の脚で風を切り、汗をかき、その土地の空気や人々の温もりに触れる体験には絶対に叶わない。

毎年の"SUNDAY夏休みの旅"のテーマは、山と海、自然と暮らしを辿り感じる繋がる。極力「人力」にこだわり自転車を漕ぎ、公共交通機関で繋ぎ、現地の方々と触れ合いながら、その土地の日常のグラデーションに深く潜り込んでいく。

今回の瀬戸内への旅は、まさにその「生きている実感」を再確認する素晴らしい時間になった。

  1. 夜の航海から、四国霊峰・石鎚山へ

旅のはじまりは、大阪からの「オレンジフェリー」。

愛車を輪行袋に入れず、解体しないまま自分の客室へポンと持ち込める「マイバイク持ち込み」は究極の贅沢だ。盗難の心配もなく、大切な相棒と同じ部屋で過ごす夜の船旅。

瀬戸内の静かな波の揺れに包まれながら今治へと向かう。

早朝、今治港に降り立ち、そこからは自転車で石鎚山ロープウェイ乗り場を目指す。

車で通り過ぎてしまえば一瞬の景色も、自転車のアプローチならその土地の匂い、人々の生活の営み、空気の変化が肌からダイレクトに伝わってくる。

街から山へとグラデーションのように移り変わる暮らしの中に身を置くこと。それこそが、修験の山として古くから信仰されてきた石鎚山へ登る「意味」を、何倍にも深く、確かなものにしてくれた。

山頂はあいにくのガスに包まれていたけれど、自分の脚でアプローチし、自分の足で頂きを踏めたことに心から感謝した。

手にした御朱印の重みとともに、自転車でアプローチするアプローチ登山という遊びの圧倒的な充実感、そして「山に向かう行い」そのものの深い意味を噛み締めた。

 

2. 巨大な「人力の道」への感謝、そしてブルーラインのその先へ

山を下り、しまなみ海道へ。

走りながら湧き上がってきたのは、この「しまなみ海道」という壮大なプロジェクトを発案し、カタチにしてくれた人々への深い感謝だった。

世の中の道路開発は、どうしても自動車社会を中心に進んでいく。僕たちが暮らす日常を見渡しても、電車や船に自転車をそのまま持ち込むことすら決して容易ではない。そんな時代の中で、あえて「人力移動」を軸に据え、自転車で海を渡れる環境をこれほどのビッグスケールで実現してくれたこと。その思想と努力には、頭が下がる思いがする。

もしこんな風に、歩く人や自転車で移動する人のための環境が日本中に広がっていったら、どれほど素敵な世界だろう。車を降りて風を感じ、自分の足で街や自然と繋がれる場所が増えていく未来を想像するだけで、胸が躍ってくる。

そして、この安全で素晴らしい「ブルーライン」という確固たるベース(骨組み)を創ってくれたからこそ、僕たちは安心してその道から外れることができる。

メインルートを少し離れ、脇道へ抜けた先にある世界。路地裏の古い街並み、商店街のおばちゃんとの何気ない会話、柑橘の匂う集落、海と山のグラデーション。

一度その恩恵をベースとして受け取ったからこそ、「この島々をもっと遊び尽くしたい」という欲求が湧いてくる。今回は全体を辿る旅だったけれど、この巨大なインフラに感謝しつつ、次は生口島や大三島を拠点にして、自転車とハイキングで「ブルーラインのその先」にある暮らしや自然を探る旅に出たい。大三島の鷲ヶ頭山に登り、古くからある神社やお寺を巡る——走ったからこそ、次の旅の芽生えがはっきりと見えてきた。

3. 尾道満喫と、旅の神様からのご褒美

旅の終盤、尾道へ。

洗練された「ONOMICHI U2」でコーヒーを味わい、尾道ラーメンでしっかりお腹を満たす。

そして個人的に最高だったのが、アイスクリーム屋さん「からさわ」の「アイスクリームぜんざい」。サッパリとしたアイスと優しい甘さのぜんざいが、疲れた身体にじんわりと染み渡る。(食べるのに夢中で写真なし、、)

尾道を満喫したあとは渡し舟で因島(土生港)へ渡り、そこからサイクルトレインを乗り継いで今治へ戻る陸と海の組み合わせ。

サイクルトレインの車窓からは、昼間に自分の脚で登った石鎚山越しに広がる、息をのむほど真っ赤な夕焼け。

さらに港へ向かう橋の上からは、オレンジフェリーの上に浮かぶ大きな朧月(おぼろづき)が出迎えてくれた。

 

奇跡のような情景が、旅のフィナーレを彩ってくれた。

4. 人力で遊ぶこと、生きる意味を知ること

帰りは再びオレンジフェリーで大阪へ戻り、車に自転車を積み込んで山梨への帰路についた。

途中、奈良にある知り合いのアウトドアショップ「YOSEMITE」さんに立ち寄り、ギアやウエアを眺めながら旅の余韻に浸る買い物を楽しんだ。

家に戻り、心地よい疲れと眠気の中で旅を振り返っている。

自転車を漕いでいて、面白そうなトレイルを見つけたら歩く。

飛び込みで入ったコーヒー屋さんにテンションが上がり、美味しいアイスとの出会いに心が躍る。

夕暮れ時、刻一刻と空の色が変化していく島のサンセットタイム。

そこにあるのは、何も飾らない「まっさらな自分」だ。

今日までの歩みをじっくりと噛み締めながら、ふと自分の原点である幼少期の記憶が蘇ってくる。

遊ぶこと、それは生きる意味を知ること。

一度走ったからこそ分かった瀬戸内の深さ。

また何度でも、あの風と光に会いに戻りたい。